6月の終わり、神社に行くと、参道に大きな草の輪が立てられていることがあります。あれが「茅の輪(ちのわ)」です。
くぐると無病息災のご利益があると言われますが、実はその背景には、スサノオノミコトと「蘇民将来(そみんしょうらい)」という、ちょっと怖くて深い古代の物語が隠れています。
今回は、茅の輪くぐりとは何か、その由来、正しいくぐり方、そして2026年の日程まで、ひとつずつやさしくお話しします。
📌 この記事の結論
- 茅の輪くぐりは、1年の折り返し6月30日「夏越の祓(なごしのはらえ)」に行われる、半年分の穢れを祓う神事
- 由来は『備後国風土記』の蘇民将来とスサノオ(武塔神)の伝説
- くぐり方は「左・右・左」と8の字に3回。唱え詞を心の中で唱えながら
- 2026年の夏越の祓は6月30日(火)
茅の輪くぐりとは?1年の折り返しに穢れを祓う神事
茅の輪くぐりは、毎年6月30日に全国の神社で行われる「夏越の祓」という神事の一部です。
1年は12か月。そのちょうど折り返しにあたるのが、6月の末日です。年明けから半年のあいだに、私たちは知らず知らずのうちに、心身に「穢れ(けがれ)」や「罪」を溜め込んでいる——古来、日本ではそう考えられてきました。それを祓い清めて、残り半年を健やかに過ごせるよう願うのが、夏越の祓です。
その象徴が、茅(ちがや)という草を編んで作った大きな輪。これを決まった作法でくぐることで、半年分の穢れを落とす、というわけです。年末の「年越の祓(としこしのはらえ)」と対になっていて、日本人は古くから、1年を2回の「大祓(おおはらえ)」で区切ってきました。
茅の輪くぐりの由来|蘇民将来とスサノオの伝説
茅の輪くぐりのルーツは、8世紀初めの『備後国風土記(びんごのくにふどき)』に記された、蘇民将来の説話にあります。少し怖い話ですが、由来を知ると、茅の輪くぐりの意味がぐっと深まります。
物語のあらすじ
昔、武塔神(むとうのかみ)という神様が旅をしていて、日が暮れ、宿を探していました。その土地には、将来という名の兄弟が二人住んでいました。
弟の巨旦将来(こたんしょうらい)は裕福で、立派な家をたくさん持っていました。けれど、武塔神が宿を頼むと、けちって断ってしまいます。一方、兄の蘇民将来はとても貧しく、暮らしは粗末でした。それでも武塔神を快く家に迎え入れ、わらの座を用意し、粟(あわ)のご飯でせいいっぱいもてなしました。
数年後、武塔神は八柱の子を連れて再びこの地を訪れ、蘇民将来に恩返しをします。「茅の輪を作って腰につけなさい」と告げ、その通りにさせました。すると、その夜のうちに疫病が流行り、茅の輪をつけていた者を除いて、人々はことごとく滅んでしまったのです。
そして武塔神は、最後にこう名乗ります。「吾(われ)は速須佐雄能神(スサノオノミコト)なり」と。そして、「後の世に疫病が流行ったら、『蘇民将来の子孫である』と言って茅の輪を腰につければ、災いを免れるだろう」と教えました。
孔雀のひとこと
この物語、私が一番大切だと思うのは「貧しくても、人をもてなす心を忘れなかった」という点なんです。お金があるかどうかではなく、どう人と向き合うか。借金で苦しかった頃の私には、グサッと刺さる教訓でした。
「蘇民将来子孫也」のお守り・護符
この伝説から、「蘇民将来子孫也(そみんしょうらいのしそんなり)」と書いた護符を玄関や門口に貼る風習が、日本各地に生まれました。「私は、神様を敬い人を大切にした蘇民将来の子孫です」と示すことで、災いを避けるという意味が込められています。今でも、スサノオを祀る神社では、こうした護符やお守りが授与されています。
なお、由来となった伝説には複数の異伝があり、細部は文献によって異なります。本記事では『備後国風土記』逸文に基づいて、もっとも広く知られる形でご紹介しています。
茅の輪くぐりの正しいやり方と唱え詞
では、実際のくぐり方です。基本は「左・右・左」と、8の字を描くように3回くぐります。神社によって細かな作法や唱え詞が異なる場合もあるので、現地の案内があればそれに従ってください。
くぐり方の手順
- 茅の輪の前で、軽く一礼します
- 1回目:左足からまたいでくぐり、輪の左側を回って正面に戻る
- 2回目:右足からくぐり、輪の右側を回って正面に戻る
- 3回目:もう一度左足からくぐり、左側を回って正面に戻る
- 最後にもう一度くぐって、そのまま神前へ進み、参拝します
※その前に、手水舎(てみずや)で手と口を清めておきましょう。茅の輪をくぐったあとは、二拝二拍手一拝で参拝します。
唱え詞(となえことば)
くぐりながら、次の唱え詞を声に出して、あるいは心の中で唱えるのが古くからの作法です(諫早神社などで伝えられている代表的なものです)。
【1回目・左回り】
水無月の 夏越の祓する人は 千歳(ちとせ)の命 延ぶと云うなり
(6月に夏越の祓をした人は、寿命が千年も延びると言われている)【2回目・右回り】
思ふこと みな尽きねとて 麻の葉を 切りに切りても 祓ひつるかな
(悩みごとがすべて尽きるようにと願いながら、麻の葉を切って祓い清めるのだ)【3回目・左回り】
蘇民将来 蘇民将来
(伝説の蘇民将来の名を唱え、その子孫としての加護を願う)
2026年の夏越の祓・茅の輪くぐりはいつ?
2026年の夏越の祓は、6月30日(火)です。多くの神社では、この日(または前後の数日間)に茅の輪を設置し、夕方に大祓式の神事を行います。
ただし、すべての神社が6月30日ちょうどとは限りません。旧暦に合わせて7月末(月遅れ)に行う神社や、独自の日程で行う神社もあります。また、茅の輪の設置期間も神社ごとに異なります。お参りを予定している神社の公式情報を、事前に確認しておくのが確実です。
夏至と夏越の祓|「区切り」を重ねる古来の知恵
夏至(2026年は6月21日)から夏越の祓(6月30日)まで、6月後半は「区切り」が続く時期です。夏至は1年でもっとも昼が長い、太陽のエネルギーが極まる日。そして夏越の祓は、1年の折り返しに穢れを祓う日。
どちらにも共通しているのは、季節の節目に立ち止まり、自分や暮らしをいったん整えるという、日本人が大切にしてきた知恵です。難しく考える必要はありません。茅の輪をくぐることも、夏至に朝日を浴びることも、「ここで一度、半年をリセットしよう」という、自分への合図なのだと思います。
私自身、借金で苦しかった頃にこうした暦の区切りを生活に取り入れるようになってから、「だらだら続けてしまう悪い習慣」に区切りをつけやすくなりました。神事が直接お金を増やすわけではありません。でも、立ち止まるきっかけとしては、これ以上ないものでした。
📖 この記事について(信頼性・出典)
蘇民将来の伝説は『備後国風土記』逸文(『釈日本紀』所引)にもとづき記載しています。茅の輪くぐりの作法・唱え詞は神社によって異なる場合があり、本記事は代表的な一例の紹介です。実際にお参りされる際は、各神社の公式情報や現地の案内をご確認ください。
本記事は、暦や神事を暮らしの区切りとして楽しむための読み物です。特定の効果を保証するものではありません。
よくある質問(Q&A)
Q. 茅の輪くぐりは、何回くぐるのが正しいのですか?
A. 基本は「左・右・左」と8の字を描くように3回くぐり、最後にもう一度くぐって神前へ進みます。ただし神社により作法が異なる場合があるので、現地の案内に従ってください。
Q. 茅の輪は持ち帰ってもいいのですか?
A. 神社の茅の輪は神事のためのものなので、勝手に引き抜いて持ち帰るのはマナー違反です。小さな茅の輪のお守りを授与している神社も多いので、そちらをいただきましょう。
Q. 夏越の祓は必ず6月30日ですか?
A. 多くの神社は6月30日に行いますが、旧暦に合わせて7月末に行う神社もあります。お参り先の公式情報をご確認ください。
Q. スサノオと武塔神は同じ神様ですか?
A. 蘇民将来の伝説の中で、武塔神が自ら「速須佐雄能神(スサノオ)である」と名乗っています。伝承上、両者は結びつけて語られています。
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最後まで読んでくださり、ありがとうございました。今年の6月の終わりは、近くの神社で茅の輪をくぐって、半年分の自分をそっとリセットしてみませんか。あなたの後半戦が、健やかなものになりますように。
